2025/12/10 20:41
淡いピンクのグラスを手にした瞬間、少しだけ気分がやわらぐ。
ロゼワインは、そんな日常の中の小さな幸せを映すワインです。
その柔らかな色合いの中に、光、風、時間の流れが静かに溶け込んでいます。
この記事では、ロゼワインの基本や美味しい飲み方、料理との相性、そして南仏の人々がどのようにロゼを楽しんでいるのかをご紹介します。
ロゼワインとは?基本と魅力を知る
ロゼワインは、赤ワイン用のブドウを使いながら、果皮を短時間だけ果汁に触れさせることで生まれます。そのため、赤ほど渋みが強くなく、白よりも果実味がやわらかく香ります。
【ロゼワインが生まれる3つの製法】
ロゼワインの色・香り・味わいは、ブドウの果皮とどのように向き合うかによって大きく変わります。それぞれの製法には、土地と造り手の美意識が静かに息づいています。
● 直接圧搾法(pressurage direct)
赤ワイン用の黒ブドウを収穫後すぐに圧搾し、果皮をほとんど浸さずに仕込む方法です。短い果皮接触時間によって、ロゼワインは淡く繊細な色合いに仕上がります。
南仏のロゼワインの多くはこの製法で造られており、ほのかな“くすみ”と“光の透け感”を併せもつ独特の美しさがあります。
「砂の色」や「陽に透ける果皮」、「リネンのような淡さ」——その色は、地中海の光と風を映すように、静かでロマンチックな輝きを放ちます。
私がいくつものワイナリーを訪ねて感じたのは、ロゼワインの色合いは技術だけでなく、作り手の感性や好みによって決まるということです。
ほとんど白に近いロゼワインを造る生産者もいれば、少し濃いめの色を選び、お客様の“人気の色”に合わせる造り手もいます。ロゼワインの色には、土地と同じくらい人の美意識が表れるのだと思います。
● セニエ法(saignée)
赤ワインを仕込む途中で、そっと果汁を抜き取って生まれるロゼワインです。
果皮と触れる時間が長いため、グラスの中には南仏の夕暮れのような深い色が広がります。
香りには赤い果実の温かさやほのかなスパイスの陰影が重なり、
直接圧搾法の軽やかなロゼワインとはまったく違う表情を見せます。
味わいに輪郭や奥行きを求める造り手が選ぶ製法で、ひと口ふくむと、果実の密度や土地の力強さが静かに満ちていくようです。
私にとってセニエ法のロゼワインは、夏の強い光ではなく、日が沈む前の静かな時間に似合うワインです。温かい料理と合わせると、味わいがゆるやかに伸びていき、夜の始まりが少し穏やかに感じられます。
● ブレンド法(assemblage)
白ワインに少量の赤ワインを混ぜてロゼワインの色をつくる方法です。
世界では古くから行われていますが、フランスではスティルワインのロゼワインにこの方法を用いることが法律で禁止されています。果皮から自然に生まれる淡さを大切にするロゼ文化を守るためです。
ただし例外として、ロゼ・シャンパーニュ(スパークリング)は伝統的にこのブレンド法が認められています。赤ワイン由来の芯のある色調と、泡が運ぶ香りが重なり、他にはない華やかさが生まれます。
ブレンド法は、“ロゼワインをどんな美しさで表現したいか”という地域と造り手の哲学が現れる製法とも言えるでしょう。
赤ワインや白ワイン、オレンジワインとロゼワインの違い

ロゼワインは赤と白の“中間”ではなく、まったく独立した個性を持つワインです。
【白ワインとの違い】
白ワインがレモンや青りんごのようにすっと立ち上がる香りなのに対し、ロゼワインは黒ぶどう由来のいちごや白桃のような、丸みのある香りがふわりと広がります。口に含むと、白ワインは直線的に酸が伸びていきますが、ロゼワインは果実のやさしい甘みと酸が同時にほどけるように広がり、柔らかな余韻を残します。
【赤ワインとの違い
赤ワインは、黒ぶどうの果皮と種を長時間浸すため、タンニンが豊富で力強い味わいになります。ロゼワインは果皮接触が短いため、渋みは穏やかで軽やか。それでも黒ぶどうの骨格がほのかに残ることで、白ワインにはない奥行きが加わります。これこそが、“軽さと深さの同居”というロゼワインの魅力です。
【オレンジワインとの違い
オレンジワインは白ぶどうを皮や種ごと発酵させ、琥珀色と心地よい渋みを持つワイン。ドライフルーツや紅茶、スパイスのような複雑さがあります。一方ロゼワインは、黒ぶどうの明るく伸びやかな香りが主体で、酸も軽やか。
淡い色でも“ロゼワインは黒ぶどうの世界、オレンジワインは白ぶどうの世界”という根本的な違いが存在します。
ロゼワインの美味しい飲み方

【ロゼワインの最適な温度
ロゼワインは冷やしすぎず、温まりすぎず。
一般的には 8〜12℃ が香りと酸のバランスが最も良いとされています。
冷蔵庫から出して10分ほど待つと、香りがふんわりと開いてきます。
【色やスタイルによる適温の違い
- 淡い色・辛口タイプ(プロヴァンス系) …… 8〜10℃
- 中間色・果実味系 …… 10〜12℃
- 甘口ロゼ …… 6〜8℃
温度が低いと酸が引き締まり爽快に。
温度が上がると香りが丸く開き、質感が柔らかくなります。
【冬は「常温ロゼ」もおすすめ
寒い季節には、ロゼワインをあえて冷やさずに飲むと、質感がより柔らかくなります。
果実味の広がりも穏やかで、暖かい料理と自然に調和します。セラーに入れる場合は、14℃くらいにするとシルキーなロゼワインの味わいを楽しめます。
【おすすめのグラス
白ワイン用のチューリップ型が理想的。香りとミネラル感を引き立てます。
ただし、かしこまる必要はありません。大きめのグラスで香りをふんわり楽しむのも、ステムなしタンブラーでごろ寝しながら飲むロゼもまた格別です。
ロゼワインと料理の相性|季節ごとのおすすめペアリング
ロゼワインは季節を問わず、食卓に静かに馴染む万能なワインです。
その日の料理や空気に寄り添うように自然と調和します。
【春〜夏|淡い色の辛口ロゼ】
- サラダ
- 魚介
- ハーブ
- レモンの効いた前菜
- アサリの白ワイン蒸し
- 鯛のカルパッチョ
- バジルサラダ
淡い辛口ロゼは、春〜初夏の光の中でいちばん美しく映えます。
【一年を通して楽しめる万能タイプ|中間色ロゼ
果実味とミネラルの両方があるタイプは、白身魚、鶏肉、グリル野菜などの“やさしい旨味”と相性抜群。
- チキンソテー
- グリル野菜
- ラタトゥイユ
- 冷製パスタ
料理に少し焦げ目があると、ロゼの丸みがそっと呼応します。
【秋〜冬|深い色のロゼ
果皮由来のやわらかなタンニンを含む濃いロゼは、温かい料理とよく合います。
- 白カビチーズ
- 鶏肉のロースト
- 豚肩ロースのグリル
- スパイス料理
ロゼワインの穏やかな酸が、料理のコクをきれいにまとめ上げてくれます。
【和食との相性
ロゼワインのやさしい果実味は和食とよく調和します。
- 淡いロゼ …… 天ぷら、刺身、冷奴
- 中間ロゼ …… 焼き鳥(塩)、照り焼き
- 濃いロゼ …… 味噌料理、すき焼き、豚の角煮
色の濃さを手がかりに選ぶと、料理との一体感がより感じられます。
ここまで、ロゼワインの基礎・製法・色や味わいの違いについてご紹介してきました。続く「その2」では、南仏の人々がどのようにロゼワインを楽しんでいるのか、日常のシーン、料理との相性、そしてロゼワインの美味しい飲み方を詳しくお届けします。
ロゼワインの魅力がぐっと広がる内容なので、ぜひ続けてご覧ください☺️
